郭四志『中国エネルギー事情』(岩波新書)

中国エネルギー事情 (岩波新書)

中国エネルギー事情 (岩波新書)

本書は中国のエネルギー事情についての本であり、これまでの中国のエネルギー政策及び今後の方向性について分かりやすく解説されている。大きく分けて石油、天然ガス、石炭、原子力、再生エネルギーに分類されている。

中国のエネルギー政策は基本的に、今後拡大する国内のエネルギー消費量を拡大するため、その供給源を確保することである。一方、環境技術や原子力設備に関する技術など、国際的に大きく後れをとっている分野については先進国と共同開発等通じて追いつくことが主要目的となる。

中国は過去、石油などのエネルギー資源を単なる商品と見ていたと本署は解説している。故に例えば石油関連分野では欧米メジャーと権益確保に関する競合を避けるため、テロや紛争などのリスクを懸念して進出しづらいようなハイリスク地域へ積極的に進出。また、M&Aを通じた企業買収を進めている。しかし、そういった行動が欧米諸国から「独裁者を支援している」と批判されたり、警戒感からアメリカ企業のユノカル買収をアメリカ議会により拒否されている。そのため、近年ではそういった欧米諸国の批判を避けるため、欧米メジャーと共同して買収を進めたり、時には内政干渉も行って独裁者に対して是正を求めたりしている。

また、国内事情については国内の統制価格と国際価格の問題が顕著になっている。例えば国内産天然ガス価格は国際価格に比べて非常に安く、よって需要が逼迫しているのに外国からの輸入を控えることで供給不足を引き起こす事例も起きている。エネルギー原料の拡大に伴い、政府による統制を維持しながら、国際価格とのギャップを埋めつつ安定的に国内需要を満たす仕組みが求められている。

原子力については日米欧と異なり、原子力施設開発の反対運動はそれほど起きていない。というのも、中国国内の土地は原則的に国有であって国に使用の裁量権があること、また中国国民の権利意識が低いことなどをその理由としてあげている。本書は福島原子力発電所の事故前に発刊された(2011年1月20日)ため、現在も同じ状況か否かは定かではないが、政策上の障壁は少なく今後も積極的に利用を促進していくようである。


先日の著書で中国の対外政策は様々なアクターが関与しているとのことだが、殊にエネルギー関連分野は元エネルギー企業の人間が政府・党の要職にあるため、資源外交を展開しやすいのだという。今後、中国は国際的な批判を避けながら逼迫するエネルギー需要を満たすため、資源外交・技術提携を更に深めていく。その動きの中で日本は如何に関与していくのだろうか。