読売新聞中国取材団『メガチャイナ』(中公新書)

メガチャイナ―翻弄される世界、内なる矛盾 (中公新書 2106)

メガチャイナ―翻弄される世界、内なる矛盾 (中公新書 2106)

読売新聞による中国のルポタージュ。

一昨日、昨日に紹介した書籍と比べ、全体的に中国に対する警戒感が強い印象を受ける。日本の対中国警戒感を表現したような書籍だ。

話の流れとしては冒頭に周辺各国との領土問題を取り上げ、近年になって中国の国境周辺の摩擦が増大していることを報告。また、中国が資源外交の一環として続けるアフリカなどの貧しい発展途上国への投資問題に関しても、その投資利益が中国系企業によって占められている一部実態も報告されている。

次に急速に成長し富を蓄積し世界各地で買収を続ける中国マネー、そして存在感が薄れる日本を横目に海外で活躍を続ける海外留学組の動向に関する記述が続く。中国人留学生は向学心に溢れ次々と欧米への留学・学位取得が進む一方、詰め込み教育の影響で創造力の発揮が乏しい、との指摘がある。また短期的成果を急ぐ政府と、偉くなればなるほど政界等のやりとりで忙殺される中国の風土も問題点としてあげている。

最後は制限下にある中国の言論空間で民主化を訴える活動家の状況や、チベット語モンゴル語、広東語など標準中国語への統一を目指す政府との軋轢が紹介されている。


本書は中国と関係を持つ周辺人物を中心に取材を行った感があり、それが中国政府要人や関係者を中心に取材した『中国の新しい対外政策』に比べて警戒色を強めているのであろう。

いずれにせよ、中国は今後も巨大市場としての側面を生かしながら対中批判を封じ込みつつ、更なる国威発揚に努めていくのだろう。人民元が割安であり人件費が安いことがその一因だが、中国は日本のバブルを生んだプラザ合意に関心を持ち、「日本と同じ轍は踏まない」と警戒している。

アメリカが圧倒的優位に立つ衛星によるGPSや、中国の輸入原油ルートの9割を占めるマラッカ海峡の安全保障がアメリカ海軍の制御下にあることなど、中国政府が憂慮すべき課題は多い。一長一短、時には一昔前の日本と同じだな、と思う場面もある。国内の不安定要素は経済成長と共に縮小するのか、それとも逆に国際社会との交流拡大で逆に増大するのか。いずれの可能性も残す中国の今後を予測することは、尚も困難であるように思われる。