高島俊男『中国の大盗賊・完全版』(講談社現代新書)

中国の大盗賊・完全版 (講談社現代新書)

中国の大盗賊・完全版 (講談社現代新書)

TwitterのあるFollowerさんから「中国人の行動様式を知るのに適していますよ」というような推薦を受け、購入した書物。内容としては文字通り、中国における盗賊について記した書物。

ただ、本書で使用される盗賊という単語には注意を要する。盗賊と呼ばれているのはあくまで王朝側から見て王朝の意向に従わない民間武装勢力のことを指し示すのであって、不正義をもって盗賊という訳ではないのである。もちろん、だからといって盗賊が正義であるというわけではない。是々非々である。

本書で取り上げる人物は5名。秦末の陳勝前漢劉邦、明の朱元璋、明末に活躍した李自成、太平天国洪秀全、そして中華人民共和国毛沢東である。彼らの共通点は先の盗賊の定義と符合する。つまり、当時の既成権力構造の中の一員が権力闘争の末に勝ち取った権力ではなく、下層の民間から成り上がってついには有力勢力または皇帝まで上り詰めた人物らだ。

皇帝にまつわる正史のエピソードは後になって挿入された形跡が見られることや、陳勝劉邦朱元璋などは今知られているのような立派な名前はなく、恐らく権力を握った後に箔をつけるために立派な名前を名乗った可能性の強いことなど、正史にまつわる裏話が色々書かれている。その当時の通史を知らなくても楽しく読めるし、歴史における正史の位置づけもよくわかるのではないだろうか。とにかく、中国の考え方は日本人と少し異なる面があるから、その辺を理解するには有用であろう。

それにしても『明史』は小説などのエピソードをふんだんに取り入れている一方、それ以外の文献も多数あって興味深い時代である。『明史』で書かれているから真実、ではなくて改竄だったり偏向だったり色々なので他の野史にも目を向けて考証する必要がある。

過去の日記にも書いたが、時代が現代に近づくにつれ、文献資料がとにかく豊富であると言うことは様々なことを知ることができる一方、考証にえらく時間がかかって大変そうだなぁととにかく思ってしまう。それはそれで楽しそうではあるが、しかしは私はやっぱり古代史が良いなぁと改めて思う次第。