桓寬『鹽鐵論』本議第一 (2)

大夫曰:「匈奴背叛不臣,數為寇暴於邊鄙,備之則勞中國之士,不備則侵盗不止。先帝哀邊人之久患,苦為虜所系獲也,故修障塞。飭烽燧,屯戍以備之。邊用度不足,故興鹽、鐵,設酒榷,置均輸,蕃貨長財,以佐助邊費。今議者欲罷之,内空府庫之藏,外乏執備之用,使備塞乘城之士饑寒於邊,將何以贍之?罷之,不便也。」

大夫とは御史大夫、つまり専売制や均輸制を実施した桑弘羊を指す。前段の文学の士の問題提起を受け、桑弘羊は対匈奴の戦いに多大な資金が必要であり、現在の制度が辺境の防備を維持するために必要不可欠であることを説いている。

尚、「烽燧を飭う」の意味については、『史記』司馬相如伝本文の「聞烽舉燧燔」の部分の注釈、『史記集解』と『史記索隱』がそれぞれ解説をしている。「飭う」は「整える」と同義で、整備するという意味合い。

漢書音義曰:「烽如覆米●,縣著桔槔頭,有寇則舉之。燧,積薪,有寇則燔然之。」
(『史記集解』,●=竹冠に「奥」の字)

「桔槔」とははねつるべのこと。『史記集解』の解説だと、烽ははねつるべの原理を生かした物らしいが、ちょっとイメージがわかない。火は使わないのだろうか。燧は薪を積んでおき、敵襲が来たらその薪を燃やして知らせる仕組み。

熢燧。韋昭 曰:「熢,束草置之長木之端,如挈皋,見敵則燒舉之。燧者,積薪,有難則焚之。熢主晝,燧主夜。」
(『史記索隱』)

「皐を挈えるが如く」をどのように解すれば良いか分からないが、熢は長木の端っこに草を束ねた物を置いておき、敵襲が来たらこれを焼いて挙げるという。松明みたいなものか?ちなみに熢は烽の異体字。一方、燧は『史記集解』とほぼ同じ解説である。熢は昼間、燧は夜間に使用する。


烽燧に関しての話が長くなってしまったが、端的に言えば膨大な軍事費用を賄うために専売・増税措置を採ったのが桑弘羊の経済政策である。