桓寬『鹽鐵論』本議第一 (3)

文學曰:「孔子曰:『有國有家者,不患貧而患不均,不患寡而患不安。』故天子不言多少,諸侯不言利害,大夫不言得喪。畜仁義以風之,廣德行以懷之。是以近者親附而遠者悦服。故善克者不戰,善戰者不師,善師者不陣。修之於廟堂,而折沖還師。王者行仁政,無敵於天下,惡用費哉?」

大夫曰:「匈奴桀黠,擅恣入塞,犯窅中國,殺伐郡、縣、朔方都尉,甚悖逆不軌,宜誅討之日久矣。陛下垂大惠,哀元元之未贍,不忍暴士大夫於原野;縱難被堅執銳,有北面復匈奴之志,又欲罷鹽、鐵、均輸,擾邊用,損武略,無憂邊之心,於其義未便也。」

文学の士が冒頭で孔子の言として引用しているのは、『論語』の以下の文章。

丘也聞,有國有家者,不患寡而患不均,不患貧而患不安。
(『論語』季氏第十六)

金谷治訳注『論語』によると、この部分は以下のように翻訳される。

自分の聞くところでは『国を治め家を治める者は、〔人民の〕少ないことを心配しないで〔取り扱いの〕公平でないことを心配し、貧しいことを心配しないで〔人心の〕安定しないことを心配する。』
(金谷(訳注)『論語』(岩波文庫) p.328)

その後には経済や利害に固執することを否定し、仁政を敷いて遠近共に信服させるべきを説く。そうすれば「天下に於いて敵無く、悪くにか費えを用いん哉?」とし、その前段で桑弘羊が主張したような財政政策は必要ないと主張する。

一方、桑弘羊は匈奴のことを油断ならぬ敵対勢力だと手厳しく批判し、匈奴の侵入によって被害が後を絶たない実情を説く。よってもし現在の財政政策を罷めるようなことがあれば、北方の防備は疎かとなって支障を来すと主張するのである。


片や儒教の理想としてきた不戦・徳治主義、片や増税・軍備増強路線。理想と現実の中で如何に政治を運営すべきかの議論は、形を変えて今でも行われている。子細は異なれど、議論の対立の構図は今も昔も変わらないようだ。