班固『白虎通』巻一 爵 (5)

婦人無爵何?陰卑無外事,是以有三從之義:未嫁從父,既嫁從夫,夫死從子。故夫尊于朝,妻榮于室,隨夫之行,故《禮郊特牲》曰:「婦人無爵,坐以夫之齒。」《禮》曰:「生無爵,死無謚。」《春秋》録夫人皆有謚,夫人何以知非爵也?《論語》曰:「邦君之妻,君稱之曰夫人,國人稱之曰君夫人。」即令是爵,君稱之與國人稱之不當異也。

婦人に爵がない、ということについて論述している段落。『列女傳』にはかの有名な「未だ嫁がずは父に従い、既に嫁げば夫に従い、夫が死せば子に従え」の文句があり、『禮記』には「婦人に爵無く、坐して夫の歯を以てす」「生きて爵無く、死して謚無し」とある。とにかく女性、特に嫁いだ夫人は夫の陰となるべきことが説かれている。

しかし、一方で『春秋』には婦人に爵がある記録が残っている。これを受けて『白虎通疏証』の著者である陳立は注釈で

此據夫人有謚,以難婦人無爵也。(此れ夫人謚を有するに據りて、以て婦人の爵無きを難ずる也。)

と述べている。正直、これだけでは何と解釈して良いのか完全には掴みきれないが、婦人には爵がないんだという考え方は必ずしも当てはまりませんよ、ということなのかも知れない。*1 *2

*1:その後、Twitter上でgoushu氏から「陳立の注は文末につけられているのでわかりにくいけど、「《春秋》録夫人皆有謚,夫人何以知非爵也?」に対する注釈っぽい。『白虎通』は「春秋によると夫人に謚があるんだから、(爵があってもおかしくない、というか)『「夫人』っていうのが爵の名前じゃね?」という論難を仮設して、仮設した論難を論破することによって婦人には爵が無いという説を補強するというレトリックを使っている。ちなみに『夫人』が爵じゃない根拠はその後の論語の引用。論語に邦君の妻は「夫人」と呼ばれたり「君夫人」と呼ばれたり呼称が変わる。」というご指摘をいただいた。多謝!ご指摘の相当箇所はこちら→

*2:更に追記。先のご指摘を踏まえれば、婦人に爵は無いのですよ、ということになる。